2019年3月24日日曜日

1章4節 スタッフ集め

福田さんも、何もしなかったわけではありません。
リーダー役に名乗り出てくれた後輩たちを集め、まずは飲み会を開催しました。
とはいっても実は福田さんは下戸なのです。
自分はウーロン茶で、学生たちにはお酒を飲ませての説得です。
そこで、福田さんは陽子さんに語ったことをまた、熱く語ったのです。
「この奥山村ふるさとキャンプは、子ども達に第2の故郷を作ってあげるということなんだよ。よくよく考えたら、東京や神奈川とか、街の子どもたちはもう、故郷と言える故郷がないんだよな。君たちには故郷はあるかい?」
何人かの学生は、そういえば、私にも故郷はないな~と、いい始めました。
「故郷のない子供たちに田舎の体験をしてもらったらいいと思うんだ。そうして、その子供たちがキャンプ地を第2の故郷のように思ったら、そこの自然を大切に思うだろう。そうなれば自然破壊とかも少なくなるだろうし、そして、いずれ都会を離れて、その第2の故郷に戻る人も増えるんじゃないかと思うんだよね。そうすれば、都会の一極集中も自然に解消されるだろう。」
「先輩、いいですね。俺、野外教育専攻なんですが、大学の先生たちの理屈より、先輩の言うことのほうがずっと野外教育の価値って感じがします。日本型の野外教育ですね。」と、平野君が熱く同調してきました。
「俺は、理屈はよくわからないですけど、ボーイスカウトでキャンプずっとしてきたから、きっと役に立って見せますよ。」と、わかっているかどうかよくわからないが、なんとなく体育会系の谷口君が胸を張る。実は彼は、ボーイスカウトでも、富士スカウトという頂点を極めていたのです。
「私、広報メディア学科なんですけど…」と、ちょっと知的な感じのする伊藤さんが遠慮がちに話してきました。
「どうやって、参加者集めるんですか? それから、それ、ずっと続けていくんですか? 福田先輩は、ボランティアで来年も再来年も続けるんですか?」
「いい質問だね~。まず、募集だけれど、カントリーライフという雑誌は知っているかな。あの編集長が、俺の同級なんだ。やはり君たちの先輩だな。彼女が、応援してくれている。」
「え、カントリーライフの編集長なんですか? わたし、大好きな雑誌です。」
「まあ、本人は、まったくカントリーライフじゃないがね。彼女の故郷が奥山村なんだ。」
「なるほど~。」と一同納得の様子です。
「ふたつ目の質問だが…実は、俺は、もう、アース旅行社に辞表を出してある。この子供のキャンプをすることを仕事にしようと思ってる。今回の奥山村のキャンプは、その第一回ということで、実験的事業ということなんだ。」
「俺もやりたいです。」即座に谷口君が手を挙げました。
平野君が、「成り立つ見込みあるんですか?」と、冷静に問うてきました。
「う~ん。五分五分かな。しかし、成り立つかどうかより、今のままでは、この世の中まずいという思いが勝っているというのが、今の俺だ。」
「正直ですね。」平野君はにこやかに笑いました。果たして彼はどう思っているのでしょう。
福田さんは「しかし、この事業の成否は君たちの肩にかかっている。ということは、俺の事業の成否も、しいて言えば俺のこれから先の人生は、君たちに預けるということだ。」
「よろしく頼む」と深々と頭を下げた。
みんなが大きく拍手をしてくれました。
谷口君が「任せてください」
平野君は、「とにかく、この事業は成功させましょう」
伊藤さんは「この事業を成功させたその先の戦略も考えないといけませんね。」と、遠くを見つめていました。

キャンプ前に、みんなで集まって、いろいろなことを検討することにしました。
そこで、大学で野外教育を先行している 平野君が福田さんに提案してきました。
「福田先輩…」
「その先輩はやめてくれないか。福田さんでいいよ。」
「は、では福田さん、募集の子どもの数ですが、50人ではなくて、40人か、48人にしませんか?」
「なぜだい?」
「1グループは8人にしたいんです。ですから5グループで40人。6グループで48人です。子どもたちがグループとして機能するにはそのほうがいいと思います。」
「わかった、じゃあ、48人にしよう。陽子さんにもすぐに伝えておくよ。」
それからの段取りは平野君が、手際よく進めてくれました。
福田さんのイメージをきちんとキャンプ計画の形にして、何が必要か、どんなスタッフのトレーニングが必要か、なにを手配しなくてはいけないかなどなど。
伊藤さんがそれらをまとめて書類にしてくれます。各方面への依頼の文書なども出来上がってきました。
福田さんは、学生にあおられるように、それらを陽子さんに届けたり、直接送ったりしました。
一番びっくりしたのは、予算書でした。
3っつの予算書が出てきました。
第1案は福田さんも、学生のスタッフもみんなボランティアで実施した時の予算。
第2案は福田さんや陽子さんが報酬を受け取り、学生はボランティアのとき。
第3案は全スタッフがきちんと報酬を得るというものでした。
第4案は福田さんや陽子さんがボランティアで、スタッフには報酬を出すというもの。
それぞれに、子供たちの参加費が計算されています。
これを福田さんに手渡すとき平野君が、「福田さん、できれば、福田さんも収入を得てほしいと思います。でも、現状では難しいです。3グループ24人では採算が合わないということです。最低40人はぜひ集めたいですね。」
「そうか、ありがとう。今回は第4案の、君たちに報酬を出すという案で行こう。そのうえで、参加者が48人集まって、少しゆとりが出たら、我々も報酬を受け取ろう。」
「福田さん…」
「なんだい、平野君」
「決断の早いリーダーは信頼されます」
「えっ?」
「だって、即断即決じゃないですか。それも学生の俺の意見をきちんと聞いて決めてくれた。以前、募集人数の変更のときもそうでした。」
「そうか」と、福田さんは苦笑いしながら…「君がしっかり準備してくれてるからさ。頼りにしてるぜ」



7月に入ると、色々な準備が立て込んできて忙しくなってきました。
学生さんたちは自主的に、ミーティングを繰り返してくれます。
福田さんとの連絡役は平野君が勤めました。
休みを利用して、スタッフのトレーニングもおこなわれました。
こちらは谷口君が実に見事な指導をしてくれます。

はじめに

その昔…20年近く前になると思います。日本型環境教育の提案という本が発刊されました。 その巻末だったと思いますが、「奥深村自然学校物語・序章」というショートストーリーが乗っていました。 私はこのお話の続きが書きたいと思いました。 当時、この本に大きくかかわっていらした...